2024/08/20 16:32


16年前に玉屋えゐちを始める数年前から私の周りに石が出現しはじめた。

今ほど天然石やパワーストーンなどの流行がなく、アクセサリーの石といえばそれはもっぱら宝石のいわゆるジュエリーといわれるキラキラの世界が主流で、数珠なブレスレットをジャラジャラしているのはお金持ちのおじさんや芸能人などで、雑誌や新聞広告では開運アイテムとして壺や仏像や金色の財布と同列のいかにもな感じが一般的だったように思う。

ただ「鉱物」の世界は別に存在していて今でいう「ファインミネラル」といわれる美しい鉱物標本の世界は一線を画して在り、私がその世界に気づきはじめるとそれまで見えていなかったこの「鉱物/ミネラル」というジャンルが私の日々に一気に展開し始めた。そうして自分の為の「マスターピース」と呼ぶような鉱物に出会い今もほんの僅かだけれどコレクションし続けている。


いくつかの、いつも行く鉱物展やミネラルショーに出入りするうちに、宝石や玉屋でも扱っている研磨された石を扱う国内外の専門家の皆さんと交流する機会が増え、そこで出会った石たちを編んだり繋いだりして玉屋物を創り始めた。

実は玉屋を開店するまえに準備していた作品のほとんどがグラスビーズ作品だったのだが、開店する3か月前にそれらの作品はすべてやめにして石の作品に切り替えた。

買う買わないを別にしてとにかく予定が合えば大小のショーに出かけ、あそこにいい石があると聞けば様々な街のいろいろな石屋を訪れた。

私は原石から見極めるわけではなく、その道の専門家が世界各地から厳選して選んで並べて見せてくれるものの中から選ぶ程度だけれど、それでも何度もそうした場所に行くうちに自分の好みや世の中の好みの変遷や、石のプロたちが今どういう石をトレンドに乗せようとしているのかなどはほんのり感じられるようになってくるし、石そのものの市場での価値やそういう価値を越えて価格ではなく質のいいもの、私がその質を推せる基準のようなものは知らず感じられるようになってくる。



そうすると欲しいと思う石のなかに「私が」欲しいものと「玉屋が」欲しいものが明確に線引きされて見えるようになってきた。

「玉屋が」欲しい石というのは「玉屋物にしたい石」ということなのだけど、自分が自身のマスターピースや手放さずに置く石や身に着けていつも持ち歩く石を持つ個人の経験によって、「私を通して誰かに届く石」というカテゴリーがあることに気づき始めた。

それが玉屋えゐちを始める3か月前のことだったので予定を全てなしにするという暴挙となったのだが、そうして玉屋に並べた最初の石たちはひと月の内にすべてお求めいただきお届けすることができた。

「あなたの石、お預かりしています。」

この玉屋えゐちのコンセプトはこうして生まれた。もちろん玉屋物は私の好みでデザインされ仕立てられて、皆さんに見ていただきお求めいただくインターネットショップという大海のなかの小さな活動の小さな作品の一つにしか過ぎない。

それでもこの小さな一つ一つの私のもとにやってきて創られるのを待つ石たちは「誰かのための石」であると心に留めて今日も明日も創り続けていく。